美容家・鍼灸師・国際中医師 濱田文恵
はじめに——不調は「弱さ」じゃなく、体からの”サイン”
肌が荒れると、スキンケアを変えたくなる。抜け毛が増えると、シャンプーや栄養を探したくなる。気分が沈むと、「気合いでどうにかしなきゃ」と思ってしまう。
でも、こういう揺らぎは、あなたが弱いから起きているのではありません。体がちゃんと出している“サイン”なんです。
中医学では、肌・髪・メンタルをバラバラに扱いません。体の奥で起きている変化が、表面に出てきたものとして一続きに見ます。
今日はその視点を「五臓=機能チーム」として、日常で使える形でお伝えします。全部できなくて大丈夫。最後に”今の自分に合う1つ”が選べるようにまとめてあります。
五臓とは?——臓器名ではなく「機能チーム」
東洋医学の五臓(肝・心・脾・肺・腎)は、解剖学の臓器をそのまま指すものではありません。中医学では「役割のまとまり」として使います。
肝(かん):巡り・緊張・感情の発散
心(しん):安心・睡眠・血の巡り(ツヤ)
脾(ひ):消化吸収・栄養をつくる工場
肺(はい):守り(バリア)・潤い・呼吸
腎(じん):根っこ(生命の貯金)・髪・骨・回復
だから、肌荒れ・不眠・ため息・むくみも、すべてつながって説明できるのです。
【肝】巡りと感情のチーム——詰まると「ため息・PMS・赤み肌」
肝が弱っているサイン
胸のつかえを感じる/ため息が増える/首・肩がこる/イライラしやすい/女性はPMS・月経前の張りが強くなる
なぜ起きるのか(中医学の見立て)
肝は「疏泄(そせつ)」——巡らせる働きを担うチームです。体の気血の巡りだけでなく、感情の発散も含みます。詰まると”熱”を生みやすく、赤みや吹き出物、急な肌荒れにもつながりやすくなります。
今日からできる肝の養生
体側をゆるめる:脇腹〜肋骨のストレッチで「巡りの出口」をつくる。
香りで巡らせる:柑橘(ゆず・陳皮など)の香りを吸って、呼吸を深くする。
“モヤの置き場”をつくる:寝る前に1行だけ書いて、紙に預ける。頭の中から出すだけで違います。
【心】安心と睡眠のチーム——乱れると「不眠・ソワソワ・顔色くすみ」
心が弱っているサイン
眠りが浅い・夢が多い/途中で目が覚める/焦りが抜けない・ソワソワする/顔色が悪い・顔にツヤがない
なぜ起きるのか
心は「血脈」と「神(しん)=精神の安定」を司るチームです。夜になっても神経の音量が下がらないと、眠りが浅くなります。顔のツヤや血色も、心の状態と深く関係しています。
今日からできる心の養生
4〜5呼吸を整える:吸う4〜5秒、吐く4〜5秒。安心へ戻すスイッチとして使えます。
夜の”光”養生:寝る30分前だけ照明を落とし、スマートフォンなどの情報刺激を減らす。
ツボ・内関(ないかん):手首から指3本下のくぼみをゆっくり押しながら呼吸する。
【脾】栄養の製造工場——弱ると「むくみ・だるさ・くすみ肌」
脾が弱っているサイン
食後に眠くなる/胃もたれしやすい/下痢気味のことが多い/むくみが気になる/甘いものがやめられない
なぜ起きるのか
脾は食べたものを「気血(エネルギーと栄養)」に変える工場です。材料がつくれないと、肌も髪も”足りない状態”になりやすくなります。また、中医学では「思い悩みすぎは脾を傷つける」と考えており、ストレスと脾の弱りは切り離せません。
今日からできる脾の養生
温かい汁物を1杯:味噌汁・スープ。脾は冷えが苦手なため、温めることが基本の養生です。
食事のリズムを守る:時間を大きく崩しすぎないだけで、脾への負担が減ります。
甘いものの”代替”を用意する:温かい飲み物+少量の自然な甘み(干し柿・なつめなど)で立て直す。
※血糖コントロールが必要な方は無理しないでください。
【肺】守りと潤いのチーム——乱れると「乾燥・ゆらぎ肌・鼻喉の不調」
肺が弱っているサイン
乾燥肌・ゆらぎ肌が気になる/鼻炎・喉の不調が続く/呼吸が浅いと感じる/季節の変わり目に肌が荒れやすい
なぜ起きるのか
肺は外からの刺激から体を守る「バリア」と、体内の潤いを保つチームです。皮膚・鼻・喉とも直接つながっており、肺が弱ると肌のバリア機能も低下しやすくなります。
今日からできる肺の養生
吐く息を長くする:「深く吸う」より「長く吐く」を意識する。自律神経が整いやすくなります。
蒸しタオルを当てる:鼻〜頬を温め、乾燥やこわばりをゆるめる。
湯気のある食事を続ける:冷たいものを続けず、温かい食事で体内の潤いを守る。
【腎】生命の根っこ——弱ると「冷え・白髪・抜け毛・根拠のない不安」
腎が弱っているサイン
冷えがとれない/疲れが抜けない/足腰がだるい/抜け毛・白髪が増えた/根拠のない不安・焦りを感じる
なぜ起きるのか
腎は「生命力の貯金箱」。回復力・髪・骨・記憶とも関係します。無理が続くと根っこの力が落ち、複数のサインが同時に出やすくなります。白髪や抜け毛は腎の弱りが現れやすい代表的なサインです。
今日からできる腎の養生
温めポイントを絞る:腰・お腹・足首のどれか1つ。完璧にやらなくていい。
30分だけ早寝する:腎は睡眠中に回復します。完璧じゃなくていい、30分だけでも。
朝の起き方を変える:布団の中で手足を軽く動かしてから起きる。急な冷えを避けるだけで腎への負担が減ります。
今日の自分に合う五臓はどれ?——簡易セルフチェック
イライラ・ため息・PMS → 肝
眠りが浅い・ソワソワ・顔色が悪い → 心
だるい・むくむ・甘いもの欲 → 脾
乾燥・鼻喉の不調・ゆらぎ肌 → 肺
冷え・抜け毛白髪・根拠のない不安 → 腎
今日の自分に近いチームを1つ選んで、養生も1つだけ試してみてください。それで十分です。体はちゃんと戻ってきます。
よくある質問(Q&A)
Q. 五臓の不調は、複数が重なることはありますか?
A. はい、よくあります。たとえば「脾が弱って栄養が届かない→心への血が不足→眠れない」のように、五臓は互いに影響し合っています。複数当てはまる場合は、最も症状が強いものから養生を始めるのがおすすめです。
Q. 中医学の五臓と西洋医学の臓器は何が違うのですか?
A. 西洋医学の臓器は解剖学的な器官を指しますが、中医学の五臓は「機能のまとまり」として定義されます。たとえば中医学の「肝」は感情の発散・気血の巡りまでを含む概念であり、西洋医学の肝臓とは別のものとして理解する必要があります。
Q. 養生はどのくらい続けると変化を感じられますか?
A. 体質や不調の深さによって異なりますが、食事・睡眠・軽い運動を3週間ほど継続すると体の変化を感じやすくなります。急激な変化を求めず「昨日より少しだけ整える」くらいの気持ちで続けることが長続きのコツです。
Q. 症状が強い場合はどうすればいいですか?
A. 本コラムは中医学的視点での生活提案であり、治療を目的としたものではありません。症状が強い場合や、持病・服薬がある場合は必ず専門家にご相談ください。
まとめ——「ひとつだけ」から始める養生
東洋医学の知恵は、複雑に見えて、実は毎日の暮らしのなかにあります。
温かいものを食べる。ため息をついたら深呼吸に変える。30分早く寝る。
全部を完璧にしなくていい。今日のひとつだけでいい。その積み重ねが、肌・髪・心を静かに整えていきます。
執筆者プロフィール
濱田文恵(はまだふみえ)
美容家・鍼灸師・国際中医師・国際中医薬膳師・毛髪診断士・医薬品登録販売者
中国・江蘇省蘇州生まれ、4歳から日本で育つ。東洋医学と美容の研究を10年以上続け、3人の子を育てるママでもある。鍼灸師国家資格取得、上海中医薬大学日本校中医専門課程修了。株式会社LINOME代表取締役、一般社団法人日本セルフ美容協会代表理事。漢方コスメブランド「朱華(shuka)」プロデューサー。「老けの根っこから整える」東洋×西洋の美養法を提唱。

